みやの/(20)
T163/ B94(G)/ W60/ H102
コーヒーを飲むと先生を思い出す
深い藍色のベルベットのソファに身を沈め、僕は熱いコーヒーをゆっくりと啜った。窓の外には、ネオンきらめく都会の夜景が広がっている。だが、僕の視線は、目の前の彼女に釘付けだった。
彼女は、漆黒の髪をショートボブに切り揃え、白いワンピースを纏っている。その姿は、まるで可憐な花のようでありながら、どこか妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「先生、何をそんなにじっと見ているんですか?」
彼女は、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、僕に問いかけた。その声は、まるで小鳥のさえずりのように可愛らしく、僕の心をくすぐる。
「いや、君を見ていると、不思議な気持ちになるんだ」
僕は、コーヒーカップをテーブルに置き、彼女に視線を向けた。彼女は、かつて僕が家庭教師をしていた教え子だ。あれから数年が経ち、彼女は女優として成功を収めている。だが、僕にとって彼女は、今もあの頃のあどけない少女のままだ。
「不思議な気持ち…? どういうことですか?」
彼女は、首を傾げながら、興味深そうに尋ねた。その仕草は、まるで好奇心旺盛な子猫のようで、愛らしかった。
「君を見ていると、まるで精巧に作られた人形を見ているような気がするんだ」
僕は、正直な気持ちを打ち明けた。彼女は、僕の言葉に少しも驚いた様子を見せず、静かに微笑んだ。
「人形…? なんでですか?」
「君はとても美しい。そして、その美しさは、どこか完璧すぎるんだ。まるで、誰かが理想として作り上げた人形のように」
僕は、彼女の瞳をじっと見つめた。その瞳は、まるで深い湖のように静かで、僕の心を吸い込んでいくようだった。
「先生、私は人形じゃないですよ。ちゃんと心も感情もあるんです」
彼女は、少し拗ねたように言った。だが、その言葉とは裏腹に、彼女の表情はどこか虚ろで、感情が読み取れない。
「そうかもしれない。だが、君を見ていると、そう思えてならないんだ」
僕は、彼女の言葉を信じたいと思った。だが、心のどこかで、まだ疑念が残っていた。彼女は、本当に自分の意志で生きているのだろうか? それとも、誰かに操られているのだろうか?
その答えは、僕には分からなかった。ただ、一つだけ確かなことは、彼女が僕にとって、特別な存在だということだ。
僕は、彼女に贈ったペンダントを思い出した。それは、小さな銀色のペンダントで、中にはサファイアが埋め込まれている。彼女はそのペンダントを、いつも首にかけてくれていた。
「先生、このペンダント、とても気に入っています。いつも身につけていますよ」
彼女は、そう言って、ペンダントを僕に見せてくれた。その笑顔は、まるで春の陽だまりのように暖かく、僕の心を和ませてくれた。
僕は、彼女がペンダントを身につけているのを見るたびに、心が温かくなるのを感じた。それは、まるで彼女が僕の一部になったような感覚だった。