みやの/(20)
T163/ B94(G)/ W60/ H102
お人形さんの人形になりたい
僕は、準備室で、窓の外に広がる初秋の庭園を眺めていた。プラタナスの葉が、日に日に色褪せていく様は、どこか寂寥感を漂わせる。そこへ、彼女が訪ねてきた。
「先生、お久しぶりですわ。お元気そうで、何よりです。」
黒髪を顎の辺りで切り揃えた、小柄な彼女。白いブラウスに、黒のタイトスカートという出で立ち。大学を卒業してから数年経つが、相変わらず少女のような面影を残している。だが、その瞳の奥には、かつての生徒には似つかわしくない、妖艶な光が宿っていた。
「ああ、君か。元気そうで何よりだ。舞台はどうだい?」
「おかげさまで、なんとかやっておりますわ。でも、今回の役は難しくて…。」
彼女は、ため息をつきながら、ソファに腰を下ろした。細い脚を組み、長い睫を伏せがちにする仕草は、男心をくすぐる。だが、僕は彼女のそういった媚態に、どこか胡散臭さを感じていた。
「そうか。…ところで、それはなんだい?」
彼女の手にした、小さな黒檀の匣に気づき、僕は尋ねた。
「ああ、これですか?ちょっとしたものですが…。先生に、お見せしたくて。」
彼女は、にっこりと微笑み、匣を開けた。中には、精巧に作られた人形が入っていた。それは、まるで生きているかのように、艶かしい表情を浮かべている。
「これは…?」
「私の操り人形ですの。可愛らしいでしょう?」
彼女は、人形の糸を操り、優雅に踊らせた。その姿は、まるで彼女自身の分身のようだった。
「…君も、誰かに操られているのかもしれないね。」
僕は、思わず呟いた。彼女は、人形の動きを止め、じっと僕を見つめた。
「ええ、そうかもしれませんわ。でも、それはそれで、悪くないと思いませんこと?」
彼女の言葉に、僕は背筋に冷たいものを感じた。まるで、彼女自身が呪物に憑りつかれているかのような、そんな気がしたのだ。
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