みやの/(20)
T163/ B94(G)/ W60/ H102
らきゅがき
僕は、古びた革張りのソファに深く腰掛け、煙草の煙をくゆらせていた。窓の外には、夕暮れの薄闇が迫り、街の灯りが一つ、また一つと点り始める。硝子越しに眺めるその光は、どこかぼんやりとして、まるで夢の中にいるような錯覚を覚える。
重厚な扉が開き、彼女が入ってきた。漆黒の髪を短く切り揃え、白い肌が際立つ。吸い込まれるような瞳は、まだあどけなさの残る顔立ちに、不思議な色気を漂わせる。丈の短いワンピースからは、すらりと伸びた脚が覗き、その先には黒のエナメル靴が光っていた。
「お待たせ。」
彼女はそう言って、猫のようにしなやかな動きで僕の隣に腰を下ろした。その仕草は、まるで舞台で演じる女優のようでありながら、どこか人形じみた不自然さを感じさせる。
「退屈してたの?」
ふっと微笑む彼女の顔に、僕は一瞬ドキリとした。子供のような無邪気さと、大人の女の妖艶さが入り混じったその表情は、まるで底なし沼のように僕を惹きつける。
「少しね。君が来るのを待っていたよ。」
僕はそう答えると、彼女のグラスにワインを注いだ。彼女はそれを一口含み、満足そうに目を細める。
「このワイン、美味しいわ。ありがとう。」
彼女の言葉は、まるで蜂蜜のように甘く、僕の耳に心地よく響く。しかし、その言葉の裏に隠された真意を読み取ることができない。彼女はいつも、本心を巧みに隠しているように思える。
「ねえ、知ってる? 私、壊れやすいのよ。」
彼女はそう囁き、まるで壊れそうなほど細い腕を僕に絡みつける。その言葉は、まるで僕を試しているようにも聞こえた。
「わかってるよ。だから、僕が君を守る。」
僕は彼女の髪にそっと触れ、そう言った。しかし、心の中では、彼女を守ることができるのか、という不安がよぎる。彼女は、まるでガラス細工のように繊細で、いつ壊れてしまうかわからない。
「ふふ、強気ね。でも、私より先に壊れないでね。」
彼女はそう言って、僕の腕から離れ、窓の外を眺める。その横顔は、どこか寂しげで、僕は彼女を抱きしめたくなった。
彼女との関係は、まるで禁断の果実のように甘く、そして危険な香りがする。僕は、彼女に溺れていく自分に抗うことができない。たとえ、それが破滅へと続く道だとしても。